音楽とかなんとか 雑記帳

主に感想とメモです。

Endorfin. 6th Album LOST-IDEA 感想と雑感

この間の春M3の中でも一際耳目を集めたサークル 「endorfin.」の6th Album です。外まで列が形成されていたのはとても驚きました。

 

結論から先に言います。全楽曲これまでにないほど素晴らしいです。(ボジョレーヌーボー並感) 

 

 

endorfin.jp

 

ストーリーは「崩壊した世界で紡ぐ二人の少女の物語。平和な日常が偽りだと知った少女が、その先で見たものとは__」(公式サイトより引用)という「鬱アニメモノ」となっています。少女の名前は「シロ」と「クロ」。 

コンセプトやストーリー自体はこれまでのendorfin.のアルバムの骨格を決めていたわけですが、(例えば4th album 「Alt. Strato」) ここまではっきりと描いているのはこれが初めてかも。ある意味では一つのストーリーを表す楽曲群として纏まったアルバムでありますが、またある意味では、楽曲が少なくとも具体的なストーリーに供する以上、ストーリー性でしか楽曲を楽しめなくなるのでは?といった懸念も成立するわけです。実際最初に私が感じた印象はまさしくそれでした。ただ全て杞憂だったのですけど・・・

 

 

 

 

各楽曲の感想

  • 絵空

Lost-ideaの物語の始まりを告げる楽曲。明るい曲調の割に歌詞が不穏という、まさしくアルバムのテーマ通りに仕上がってます。電子的なストリングスが物語るイントロ、全体を貫き通すへ長調の主旋律、特にBメロの情感がたまらないですよね。爽やかさを持ちつつも、B♭が少し物悲しげに響くのがポイント

 

不穏な要素たる「絵空」の歌詞ですが、世界の秘密を隠す側=シロの立場から語られていることがわかりますね。'その瞳が歪んだリアルにそまってしまわないように'、'失くさないように鳥籠へ'、健気な思いが伝わります。

この曲の中で印象深いのがサビの歌詞「フリティラリア」。何を表し何を象徴しているのか。フリティラリア  fritillaria とはユリ科バイモ属を指す。'春を待つ'ことから開花時期が春のヨウラクユリかな? 開花時期はずれますがフリティラリアにはあの「クロユリ」も含まれます。もしかするとクロユリ=クロと比定することも無理のない話かもしれません。

 

なお、こちらなくるさんとデルタさんの共作の作詞のようですね。 

  • カラフルモーメント

 lost-ideaの中で最も可愛らしい曲。Raindrop Caffé Latteの時もそうですが、endorfin.の作る方ことsky_deltaさん、こういう曲作るの上手いなあ、といつも思います。

A→B→サビ→A→B→間奏→B→サビ(転調 半音上げ)の進行。今まで2番サビがない曲はあったけど(Spica、Raindrop caffe ratte、泡沫の灯)、間奏→Bメロは見られなかったと思います(記憶違いの可能性は高い)。それとイントロの秒針の音、この曲の情景をセンスよく表現していて好きです。

 

繰り返しになるけど歌詞がとってつもなく可愛い。なくるさん作詞だったっけ? クロ目線で描かれてます。'ねぇ夜になると明日が待ち遠しい なんて 思っちゃったりするんだ'とか、明日が来てほしくない私にとってはここまで眩しい文言はないくらい。そして'お揃いで買ったキーホルダー'、ジャケットのイラストにしっかり描かれています。

'百合のように'といった前曲「絵空」を踏襲した二人に対する比喩から考えると、対句的に2曲が構成されていると言えるかな。セットで聴きたい曲ですね。

 

  •  [kaleidoscope]

 カレイドスコープ=万華鏡の意。'レンズのような装置'といったストーリーの設定とつながるのかな。一粒ノ今、以来の2分弱の短い曲です。

 

インターリュードとして、このアルバムのコンセプトであるところの崩壊した世界、その始まりを告げる曲かなと、M3前のdemoムービーでは思いました。公開された際、衝撃的に思った人も多いのでは? ただ音を一つ一つはめ込んだだけのような、機械的なメロディーが印象的

 

'幸福のアシンメトリー'って表現が結構気に入ってて、丁度前2曲でのシロとクロの思いがすれ違っている、その非対称性不均衡性が次の曲でも如実に表れているのかな、と

 

  • ユリシス

 ユリシス=オオルリアゲハ Papilio ulysses。endorfin.って結構学名が好きですね。(e.g. Cornus Florida =ハナミズキ) 蝶という意匠自体はかなり一般的に女性について用いられることが多いのですが、(なおユリも蝶も両方とも比喩で使われている曲にDuca 「Cold butterfly」がありますね)ここで重要なのは、幸せの象徴たる青い蝶であり、かつそれらが番いの蝶であること。元の世界への憧憬の念が含まれているのでしょうか。一方で[kaleidoscope]で描かれた胡蝶との関連性については後々述べます。

 

曲調としては悲哀を直截的に表した感じ。明るい曲調の中であっても、歌詞は結構報われないようなことを言っている場合が、endorfin.では多いですけどね。

サビとかBメロとか途中で全音に変わっていたりと全体としてあっち行ったりこっち行ったりしたような、混迷、当惑を優美に表したものになっていますが、個人的にはここがこの曲の試金石となる箇所かな、と。例えば転調は動起を印象付けたり、繰り返しを避けることで作品全体をドラマチックに見せたりと、その効果は絶大ですが、それと同時に作品の一体感を壊す原因にもなります。Bメロ→サビで転調してきごちなくなった例もまあまあありますし。

ただし、電子的なストリングスやピアノの装飾が、語る対象への驚くべき追及力を以って、曲の構成を強固にする演出しているので、全体としての統一感を依然として保っているのですよね。デルタさんそういうところ上手いなあと。編曲次第でこの曲、結構印象がガラッと変わるのでは?

 

歌詞の内容もこれまた悲哀に満ちています。全曲のお互いの「すれ違い」が'双曲線' (いくらグラフを延長しても互いの曲線が交わることはない) '、'逸れていく番いの蝶'といったワードで例えられています。

そして'神様'についての捉え方ですが、「春風ファンタジア」で語られるそれを同じでしょう。どうもendorfin.の楽曲に出る神様は超越的で主人公たちの側にはいないようですよね。

また、'羽風が狂わせた'の元ネタ。私はバタフライ効果から来ているのではないかなと思っています。これもSF小説とかで度々出てくるのですが、要するにほんの些細な掛け違いで、運命を大きく狂わせてしまった、それが何なのかは果たして・・・ですが、少なくとも1番の歌詞とも、そして最後を飾る曲「薄明が告げる明日へ」でも明らかに意識した部分があるので、あながち間違えではないのかな、と

 

こちらはデルタさん作詞の楽曲。モチーフの用いられ方からもなんとなくわかりますね。

長々と書きましたが、この曲がLOST-IDEAの中で一番印象に残りました。すごい素敵な曲です。

 

  • LΦST-IDEA

 表題曲。系統的にはrealismやluminous rageに近いけどシンセ的な要素は軽減されロック風味の強い曲調となっています。これまでの曲に比べアッと驚かせる要素は少ないものの、ライブとかでは盛り上がるような(というかライブで歌っていましたね)王道を征く構成をしています。

 

Aメロ、サビはハ短調を基本とする調性となっています。一方でBメロだけは少し違うのかな。2番Aメロで唐突に電子ピアノ音が波をうつように編まれていますが、これまた綺麗でendorfin.らしいなあって思います。間奏のギターソロもカッコいい

 

'緋色'、'純白'、'黒'といった色彩表現がAメロでこの楽曲の物語の情景を描いていますが、'緋色'は[kaleidoscope]で用いられた蒼色と対応しているようにみえます。また気になった点として基本的に歌詞についてワードを漢字に変換する癖が強いように感じますが、'よすが'だけ平仮名なんですよね。多分'縁'との混同を避けたかったのかなあって。意味合いは拠り所ということですが、'願った未来'でしょうか。

 

こちらもデルタさんの作詞。感傷的なユリシスとは打って変わって、戦闘的な、アニメのOPのような曲でこれまたいいですね。

 

  • dispel 

 曲の公開は2016年(cross beats 提供曲)ですので、足掛け2年半でのfullバージョン公開となります。これを楽しみにしていた人も多いと思いますが、これまたLΦST-IDEAと同じく格好いい曲になります。

自分もshortバージョンは何回か試聴したことはありますが、当時は全くハマりませんでした。でもこのfullのdispel、最高にエモくてアルバムの中で一番リピートしています。

 

楽曲の構成自体が、今までの集大成といっても過言ではないくらい様々な要素を詰め込んでいます。まずAメロBメロはハ短調、そしてサビで変イ長調、劇的でエモさが深いのはこのためですが、追加された2番でも如何なく作曲者のセンスが光っています。

まず、「ヘドバン」ツイートでもありました、2番Bメロ、確かにこれは歌詞も含めて壮大で格好いい・・・。

1番Bメロをさらに磨き上げ迫力のあるものに仕立て、サビ前の重要な動機付けの役割を果たしているのはさすがやなあと思いました。ライブでもここの部分、本当によかったです。

そして何よりも気に入っているのは間奏ですね。音ゲー特有のサウンドに電子ピアノの装飾を交えた、今回のアルバムの他の曲と似たサウンド構成をしています。ただこのdispelでは、8bit音(いわゆるファミコンなどのピコピコ音)なんですよね間奏が。フューチャー系だと度々見られるのですが、こういったハードな曲で8bit音を間奏に採用するのは思い切っているなあと思います。endorfin.の楽曲全体を見ると、raindrop caffe ratteや純情ティータイムなどで積極的に採用されていますし、その時から非常に8bit音の使い方が好きなのですが、まさか間奏で、しかもdispelで使われるとは、、最初に聴いたとき、琴線に触れるそのメロディーに感動して泣いてました。そしてインストバージョンはこの8bit音が違います。

 

歌詞はユリシスやLΦST-IDEAとは対照的です。視点も違いますし、決して明るいとまでいかなくても、希望を模索するような、道が拓けたような歌詞となっています。

LΦST-IDEAで朽ち果てた'指標'が'脈打つ'、地平を割いた'闇'を、'交わる思い'が払いのける、また双曲線と称されたユリシスの二人に対して、'二人刻んだ時は無意味だったなんてそんな筈はないと伝えるから'、そして前述の2番Bメロ'キミの描く理想と僕の描く理想がすれ違っても指重ね紡いでく'といった表現に書き換わっていくのが、ストーリーの流れが見えてきますね。

 

歌詞については語り足りない部分もありますが、本当に熱くてエモい曲です!この曲のためだけにアルバム買いも全然ありなのでは?

 

  • 薄明が告げる明日に

 LOST-IDEAのストーリーの終わりを告げる曲。 Alt.Stratoでは最後の曲(表題曲)はどことなく物悲しいものとなっていましたが、一方「薄明が告げる明日に」は爽やかで明るい曲となっています。

 

イントロ、サビ、コーダ、全て調性を変えつつ(ホ長調 ト長調 変イ長調)、同一の旋律で成り立っているところが、多少くどく聴こえるかもしれませんが、シンプルなJPOP的楽曲として映るのでは?と思います。気を衒っていないまっすぐなフレーズが聴いてて気持ちいいです。特に落ちサビの表現がピカイチですよね。そこからラストのサビ、突然Cのキーから始まるので驚くかもしれませんが、どこかその爽やかさ、伸びやかさに今までの楽曲群を経たのを考えると、一種のカタルシスを感じます。

 

歌詞について、'過去の自分に別れを告げたら 何処へ向かおう 何処だっていい'から、dispelで語られたものと重なる部分があります。これ'二人'なんですよね。'行く末は分からない だからこそ知りたい 繋いだ手 解けないように ずっとずっと'、二人の歩む旅路が朧げに提示されてこのストーリーは幕を閉じます。

'選択をもう間違えはしないから'はユリシスの'『間違いじゃないよ』'と対応されるのかな。具体的なことはよくわからないままです、、、(これに関しては色々な解釈ができるのではないかなと思います)

 

ただこの曲についてはサビの歌詞の素晴らしさだけで十分かな

一呼吸の言葉でどれだけの未来が

変わるだろう 笑えられるだろう

幾重にも広がった結末のifはやがて

ハッピーエンドへと辿り着くstory

 

なおこちらはなくるさん作詞。ストーリーのまとめ方がうまいんですよね。 

全体の感想と雑感

 

第一回目で絵空、カラフルモーメント、薄明が告げる明日に、が発表され、第二回目ではそれこそ'日常アニメに見せかけた鬱アニメ'として[kaleidoscope]、ユリシス、LΦST-IDEA、dispelの追加が発表されました。どうしてこのような構成にしたのかについて、先のライブで聞こうと思っていましたが、やらなくて正解でしたね。少なくとも衝撃は結構大きかったし、あぁ騙された〜みたいにも思いましたが、よく考えれば3曲(インスト除く)で6th 'album'というのは少し変だなって感じがするんですけどね・・・。

このSF的な世界観について、自分自身は当初は使い古されたテーマだなあと、第一SF自体が好きではない私にとっては中々とっつきにくいものでした。受け入れられるまで自分は時間かかるかなあ、ということでさえ考えていました。

しかし、CDを開封して全曲聴いて、ライブでもLΦST-IDEAとdispelを聴いて盛り上がって、いかにこの楽曲群が一つ一つ緻密に作られているかを強烈に認識するようになりました。同時に自分にとって、勝手ながら「名作へと発展する要素」として「文脈からその作品が飛翔するか」(この点に関してはまた別の機会で書きたいです)というのを考えています。それに照らし合わせると、それぞれ一曲一曲が個性を放っているので、文脈(今回の世界観、ストーリー)から切り離して聴くなど様々な楽しみ方があるのでは?と思います。

 

そして楽曲の感想では確定性が足りなく言えなかった、色々と解釈できるのでは?といった点について、まず歌詞カードのデザインについてです。

本当にセンスあるなあって感動した人は多いと思います。問題はその解釈で、基本的に各曲ごとに白と黒を基調としたデザインとなっていますが、それについて自分はシロとクロの立場、心情を描写したものではないかと考えています。

  1. 絵空 背景黒 
  2. カラフルモーメント 背景白 
  3. [kaleidoscope] 背景白
  4. ユリシス 背景黒
  5. LΦST-IDEA 背景黒
  6. dispel 背景白
  7. 薄明が告げる明日に 背景白

 確かに白と黒で立場や考え方は対照的になっているのですが、具体的にそれがシロなのかクロなのかが言い切れないので、あくまで推論ですが背景黒→シロ、背景白→クロかなと思います。ただし整合性が取れない部分もあるので、緊急回避的に[kaleidoscope]後の楽曲については具体的な登場人物の心情、個性とは関係ない、あくまでストーリー上の場面切り替えの機能を果たしていると考えるのもいいかもしれません。

また、[kaleidoscope]で提示された「胡蝶」、その他の楽曲を踏まえるとこれ「胡蝶の夢」からインスピレーション受けたのでは?と思う節があります。目の前の世界は現実なのか幻想なのか、'what is reality?'と問う姿は、荘子自分が蝶になった夢をみていたのか、それとも自分というのは蝶が見ている夢であるのか、と問う姿と微妙に噛み合う部分もあるのかなあ、と。特に[kaleidoscope]はちょうど世界の崩壊が顕になったことを象徴する曲ですので、現実と幻想の区別がついていないことの喩えである「胡蝶の夢」とリンクするのではないか、と勝手に勘ぐっています。

 

結局このストーリーの結末はなんだったのでしょうか。その先で見たものとはなんだったのでしょうか。endorfin.の名に冠するように、(end or fin.)「終わり」という概念が特に彼らの特徴というべきものになっていますが、今回もそれを非常に考えさせる要素となっています。「君と二人きりの終わりをずっと探してる(桜色プリズム)」という表現が3年前にありましたが、それと同じ趣向といいますか、そんなことを考えています。

 

また、Endorfin.の楽曲の作詞ってどうなっているかわからないんですよね。クレジットにも特に記載されていないですし。でも配信でバラされたりする可能性もあるので、それに期待したいですね。

LOST-IDEAの方は、ツイキャスで明かされたので記載してみました。このアルバムに限っていえば、デルタさんは叙事的で元ネタを含んだような歌詞を書きますけど、なくるさんは可愛らしくて直接心に訴えるような歌詞を書いてるって感じですよね。カラフルモーメントや薄明が告げる明日にがなくるさん、ユリシスとLΦST-IDEAがデルタさん、ということですが、ストーリーの切り分け的にもわかりやすいですし、それぞれの特長が引き立っているなあって感じます。絵空の'百合'のモチーフはなくるさん提案かな?

えんどるの作詞はほんの一部の楽曲ではわかっていますが、えんどるではない別のアルバムに収録された時くらいですよね。(ガラスアゲハやコトノハ、片翼のディザイアなど) クレジットで知れる情報と今回のLOST-IDEAにおける作詞の担当といったツイキャス等で明かされた情報を元に帰納的にお二方の作詞の癖のようなものを把握できればおおよそ他の曲でも見当はつくはず...と思いきやRaindrop Caffé Latteのように可愛らしいストーリー仕立ての曲の作詞、デルタさんなんですよね。(Horizon Claireは全曲デルタさん作詞です。そこを考慮に入れると英詩を使った曲はデルタさんっぽい?)

一方で非えんどる曲でなくるさん作詞だとガラスアゲハ、テアトル・エンドロール、JelLaboratoryやエーテル(Feryquitousさんとの共作)が挙がります。アルバムのコンセプトを強く反映する曲もあり、共通する箇所を導くには、分析する素材が少なすぎる感はある

あと、Alt.Stratoのように物語が一本線で、LOST-IDEAのように2層構造の世界観とは構成が違うアルバムについても、多少作詞の分担が気に成ります。

 

(てかいざ書いてみると自分の音楽に対する知識不足が目立ちますね、、多分一部は違っている可能性があります)

 

長々と書きましたが、本当に傑作揃いのアルバムです。今回は作曲と作詞の面についての感想ばっかで、全く「歌う方」の藍月なくるさんについて触れられてなくて本当に申し訳ないです。ソロ曲含め、別の機会にまた書きます。。。(言葉にできないくらい表現豊かですばらしい歌声をもった方です。。)

 

改めて、すばらしい作品をありがとうございます。

 

 

The World was all before them, where to choose
Thir place of rest, and Providence thir guide:
They hand in hand with wandring steps and slow,
Through Eden took thir solitarie way.

   

John Milton  『Paradise lost

 

(2020/4/24 作詞について情報公開されたので大幅に追記) 

 

何か問題がございましたら修正、削除いたします。