音楽とかなんとか 雑記帳

主に感想とメモです。

Endorfin. 4th Album Alt.Strato の感想と考察 Endorfin.におけるイラストの変遷についての覚書

Endorfin. 4th Album Alt.Strato について、全楽曲の感想です。

 

2018年春M3で頒布されました。ただこの時私はM3はおろかEndorfin.すら知らなかったかな。当時はクリアファイルとか販売してたのか...もっと前からこのアーティストを知っていたかった、そんな思いがぐるぐると頭をよぎる。でも本当にどうしようもないことで、もしもっと前になくるさんやデルタさんを知っていたら、Endorfin.ってアーティストの自分の中での位置付けも変わっていたのかもしれない。そう考えたら、ちょうど良いタイミングでえんどるの楽曲に出会えたのかも。

 

Endorfin.がどのように愛されていたのか。今と同じように長蛇の列が形成されるほどだったか、すでの「とんでもない世界線に来」ていたのか。当時の感動をもし知っている方がいらっしゃったらコメントで教えてください。

 

さて、このAlt.Stratoはストーリー仕立てになっています。歌詞カードにはそれぞれの楽曲に女の子の姿が描かれています。このストーリーの主役かもしくは... ジャケットはふーみ先生書き下ろしの銀髪の女の子。Horizon Noteで描かれたキャラと同じですね。さらに「ひまわり」や「紙飛行機」といったいかにも夏らしいモチーフが並びます。

 

全体的に過去の思い出を回顧的にふり返えるようなものでしょうか。

 

前置きが長くなったのでここから書き始めていきます。

 

ーひまわり畑、入道雲、刺すような青空と蝉の声

 この場所に帰ると思い出す

 

 君は君の道へ 私は私の道へ

 きっともう交わらない平行線を歩いてゆくのだろう

 

 あの日の君の影を探してー

 

endorfin.jp

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感想につき、偉大なる先駆者様(まちかすさん、とまとさん)

 

matikun22.hatenablog.jp

tomato-scope.hatenablog.com

 

 

 1. Introduction

ピアノソロの楽曲。実は表題曲「Alt.Strato」のイントロ部分の抜粋。このアルバムの世界観がこのメロディに集約されていることを感じさせます。メロディー的には嬰ヘ長調とかそんな感じ?

 

表題曲「Alt.Strato」を聴いた後だと、ピアノソロの爽やかと共に、切なさと懐かしさを感じますね。てかEndorfin.ピアノ好きですよね()

 

 2. Cornus Florida

 cornus florida: ハナミズキの学名。元々はREVOLUTION OF HAPPY? #01に収録されていました。今回Alt.Stratoは「Four Leaves」といった元々ゲーソンとして世に出た曲も含まれます。別の文脈下で作られた曲が、Alt.Stratoというアルバムの世界観に織り込まれていく、その手法はLOST-IDEAやStories of Eveでも表れています。

 

これまたピアノサウンドから始まりますが、当初の収録先の関係かかなり電子音が目立った楽曲となっています。初夏の水々しさ、酷暑になる前の爽やかさがデルタさんらしいサウンドによって彩られ、そしてハナミズキというまさに初夏を代表する花を曲のテーマとする、この夏物語の始まりにぴったりだなと思います。

 

そして歌詞カードに描かれているのは幼少期の頃の女の子。秘密基地や「もういいかい」「まだ駄目なの」からわかるようにかくれんぼが描かれ、幼き日の思い出を彷彿とさせます。

 

ただしあくまで過去のこととして、回顧的に蘇っていきます。

秘密基地に残る あどけない君の横顔 昨日の事の様に」からは逆説的にかなりの年月が過ぎてからかつての遊び場を訪れていることがわかります。要するに主人公は大人なんですよね。

そして「君」への追憶が始まり、2番Bメロの「『もういいかい』何度も夢に見た 『此処にいるよ』愛しいその声」はかくれんぼを下敷きにしながら、思い出の「君」を追い求める様子が描かれます。ここが表現として上手いしにくいですね。

 

一方2番Aメロでは「気付いて 手を伸ばした先には影も無く いつも前を歩く 暖かいその背中を すり抜け 目を逸らす」とし、どこか離れ離れになってしまったことを示唆します。あれ、ティザームービーのシーンってこれじゃなかった?追いかけていたのは歌詞カードの女の子でしたね。女→男の視点で描かれたストーリーということでしょうか。

 

とはいえサビの歌詞は何か強い意思が感じられます。

1番サビ「遠回りをすればするほど 強く 惹かれ合う 過去さえ塗り替えて 握りしめた地図広げて 戸惑いのサイン 振り切って 駆け出そう 」、また2番サビでも「想いが強くなればなるほど 深く 予感がするんだ 運命だって」とえんどるにしては前向きで真っ直ぐですね。離れれば離れるほど募る恋心は確信へと変わっていく、それが踏み出す前向きな意思表示に繋がるのはEndorfin.の中でも割と明るい部類に入ると思います。とはいえ、これもまた究極的には叶わないこと、それがAlt.Stratoという本性なのです

 

ただこの曲、「私」や「僕」といった一人称が一切存在しないんですよね。主格を排斥することによって、元々このストーリーとは違う文脈で作られた曲であり多少の齟齬はありつつも、抽象度を高くその分意味内容の幅を広げ、幼少期の思い出というストーリーの開始地点の役割を果たしているのかな

 

えんどるらしい爽やかな曲で、間奏の電子音とギターソロの疾走感も素晴らしいです。

 

 3. リフレクション

Cornus Floridaとは打って変わってロックで主観が強いエモーショナルな楽曲。このアルバム内だと一番熱くて好きですね。カラオケでも歌えますよ。歌詞カードのイラストは中高生時代の女の子。ああ青春って感じですね。

 

Bメロで3拍子に変えるという変則的な構成をしていますが、これがまたいいアクセントになってます。なくるさんのエモエモな歌声がさらに情感を引き立てます。本当に聴いてて気持ちがいいです。こんなロックテイストかつ爽やかな楽曲増えてください...  サビ入る前がとびっきり素敵なんですよ。夏らしい疾走感、晴れ渡った真夏の空の下、まさに「青春」という言葉がふさわしいその恋情の昂りと、その切なさを歌い上げる、Alt.Stratoの中でもとびっきり眩しい曲です。

 

この曲が素晴らしいのはまっすぐ過ぎる歌詞なんですよね。もうね...過去のいろいろな記憶を掘り起こされて刺さりますよ。

 

1番Aメロでは放課後(夕暮れ)と思わしき場面の提示、「先ゆく君」の存在と君を追いかける自分が表されます。1番Bメロで、「はがれ落ちた幼さの奥に芽生えた感情 君に言えないよ 一度きりのStory」として、Cornus Floridaとは真逆の感情が描かれています。そりゃ言えないですよね。「はがれ落ちた幼さの奥に」ってところは、前曲との連続性を感じさせますよね。

 

そしてサビの歌詞が非常にストレートで最強。

僕が僕じゃなければ僕は君に出会わない」くどいくらいの「僕」の反復が返って心に残りますよね。自己意識とその同一性、不変性を大前提とした上で「君」と出会った。もし寸分も自分が違ったら今の光景はない。ここの強烈な自己意識によって、見える世界が価値づけられる部分がEndorfin.ぽいなと思います。Horizon Noteにも通じるところでもあります。

さらに、2番のサビでは「たとえ世界に空が落ちても きっと僕は僕のまま」とこれまたエモい歌詞が出てきます。ここ好きな人多いみたいですね。「世界に空が落ち」るって、まさに天と地がひっくり返るような終焉って感じですかね。LOST-IDEAのフラグ...? いわゆるセカイ系の構図なんですよ。自己の対立物として世界を見据え、徹底的に不変な、ストイックな自己を陽刻のように浮き彫りにさせる。その指向は対峙する神様を暗示する「春風ファンタジア」や「終点前」でも多少見えますよね。

 

そんな強烈な酔狂にも似た自己意識を持ちつつも、いや持っているからか、「君」に伝えられないんですよ。ここに絶望的に解決不可能な矛盾が生じます。

2番Aメロ「いつもと同じ教室の風景 けれど確かに違う"今"がここにある 似通った毎日の中で 僕らはたぶん少しずつ変わり始めてる」と残酷に時は過ぎていくことを認識していながらも、ラスサビ「全ての"今"は過去になる 気付いているのに 弱虫な僕を叱って」となってしまいます。「全ての瞬間に恋をした自分の恋情には気付きつつも、何もできない「僕」。切ないですね。

 

この曲のもう一つの特徴は「今」が強調されていること。1番サビ「全ての"今"の輝きが乱反射して 今の僕がここに在るんだ」や2番サビ「全ての"今"が過去になるその前に 君に伝えておきたいんだ」と、「君」と出会えるタイムリミットを仄めかす「今」「僕」の存在の総体を構成する「今」、2つの意味を持ち合わせます。この表現ぶりからすれば、未来から過去を眺めるような回顧的要素はなく、常に視点はこの青春時代に置かれていると解せそうです。しかし、ここまで「今」を意識しながらも君に伝えられない、という事実は、「今」が過ぎ去ってしまったことをむしろ皮肉っぽく暗示しているのかもしれません。タイムスリップしたように、現在の軸にある主人公が、当時の彼/彼女に成り代わって余情を紡いでいる、そんな解釈もありかなと。タイトルのリフレクションはまさに「今」の状態や感情全てを乱反射して反映された「僕」の内省である、そんな意味が込められているのかも。

 

ただ、Alt.Strato全体に言えることですが一人称があやふやなんですよね。特にこの「リフレクション」では「僕」と「私」が混在しています。主格があいまいだとAlt.Strato全体のストーリもわかりにくくなります。この部分については他の曲の歌詞を見て検討するべきですね。まあ「リフレクション」の書きぶりだと、明るくはしゃぐ君とそれを追いかける内向的な自分というイメージですけど... 

 

ただもうえんどるの中でもピカイチに琴線に触れる曲です。情感たっぷりななくるさんの歌声が本当に過去の様々な記憶を艶やかに、不思議な明るさと切なさをもって蘇らせてくれるような、力強い曲ですね。

 

 4. 泡沫の灯

夏祭りと花火の夜、という感じの曲です。電子音をベースとしながらも途中に入るコントラバス的なサウンドと花火のSEがなんともおしゃれですよね。ラストの鈴虫のSEもまた美しくて儚い...

この曲、なごりんliveでなくるさんが歌っていました。ちょうど季節も夏でしたね。「ガラスアゲハ」も同じく披露されていましたが、何も言えなくなるほど非常に美しかった...

 

1番Aメロ→サビ→2番A'→Bメロ→間奏→サビ→転調ラスサビと曲構成はかなり特殊、転調部「君が大好きだったんだ」のところが非常にエモいです。今までの思いが全て爆発したような感じがして好きですね。歌詞カードのイラストは高校生の女の子。ただし顔は見えていません。一体...

 

サビの歌詞の情景描写がリアルで素敵ですよね。「涙と夏を結ぶ 夜風と菊花火 尾を引いて 水面に消えていく」泡沫の灯とはこの一瞬の火のことかな。「ずっと傍に居たのに 声は泡となって 君へは届かない宴の夜、周囲の賑やかさとは対比的に、涙が零れ落ち一人佇む自分、そして君に思いを伝えられずただ岩影から幸せそうな君を覗くことしかできない、もう君は傍にいない、2番Aメロの「行き場のない 慈悲もない もうすぐ夏が終わる」とかなり状況が絶望的なことになっています。切なすぎるでしょ... 「リフレクション」とこの曲の間で思い人の中で何かあったんでしょうね。違う好きな人ができた...とか。疎遠になってしまったとか。

 

いつからこんなにもこんなにも臆病で情けなくなったの」からも「Cornus Florida」のような前向きで真っ直ぐな意志(勇気?)は成長と共に剥がれ落ちてしまった、アルバム聴いててもここで胸が苦しく成りますね。

 

そんな取り返しのつかない現実に対してラスサビの「君が大好きだったんだ ただそれだけなのに 沈んでいく 呼吸も出来ない」って部分はかなりエモいです。ここのなくるさんの表現上手いなあって思います。サイコパスなくるんの「だいすき」連呼とは全く違いますね... リフレクションで恋心を、好きなんだって思いがこの曲で、でももう現実には無理で。「だった」と過去形になっているところがまた悲しい。全てが後手後手なんですよね。シーグラスといった海、砂浜のイメージとそこへと尾を引いて落ちる花火の残骸、「沈んでいく 呼吸も出来ない」とはこのモチーフに自分の思いを投影しているのでしょうか。咽び泣いて海に沈むように呼吸ができないほど息苦しい、そんな様子も想像できます。本当に残酷だなあ...

微かな鈴虫の音 君の居たあの夏へ 二度とは戻れない」のもまた、二度と「リフレクション」で描いた幸せな光景を見れないこと、全てを失ってしまったような絶望感や過去に対する後悔が滲みでています。鈴虫の音だけが、宴の後にも響き寄る辺のない恋心と共鳴しているような

 

この曲の作詞なくるさんなんですよね。悲哀を感じさせる歌詞を紡ぐのが得意というか... 

 

似たような思いをした人にはとにかく刺さるのでは?

 

 5. Four Leaves

元々SOUND VOLTEXに楽曲提供されていた曲で、CDverのみの収録となっています。この楽曲Endorfin.からコメントがあります。

 

p.eagate.573.jp

この中でFour Leavesにつき「何か始まりを予感させるような」「真っ直ぐな楽曲」と答えられています。確かにまっすぐな歌い方ですけど、この始まりの予感とは... スタジオ初収録だったということである意味えんどるにとっては一つ上のステージに立てた、記念碑的な曲なのでしょうかね。

 

曲調としてはspicaとよく似ています。間奏のピアノ部分はのちに「彗星のパラソル」でも踏襲されていますね。(歌詞も共通する部分があります。Horizon Claireの感想参照) 間奏からCメロ、ラスサビの畳み掛けも非常に盛り上がりますね。メガ博で披露された際も本当に格好よくて、原曲よりもなくるさんの声が甘々で最高に熱かったです!あの時に戻りたい...

 

Alt.Strato内でのこのFour Leavesはかなり特殊です。第一に「君」という単語がこの曲だけ出てきません。yourselfという言葉は登場しますが、恋愛感情に等しい存在もモチーフも特にありません。徹底的に自分自身への内省が描かれています。ただしそれもまた、様々な要素を含んでいて全体的にわかりにくいのですが... タイトルのFour Leavesも、四つ葉のクローバーのイメージ(幸福や希望など)を付与しつつも、4つ=春夏秋冬:季節の移り変わりという意味を込めているのですかね。「泡沫の灯」がかなり胸が苦しくなる情景だったので、この曲はまだ救い道はあるような気も...

 

歌詞の構成要素は大まかに分けると「自分自身」「言葉」「信じること」でしょうかね。

 

1番Bメロで「誰かの言葉に引かれ歩いた道を信じることは優しさと呼べるの」とありますが、今まで歩んできた旅路の是非を問うているのかな。その旅路を貫いてきたものは「誰かの言葉」だったのであって。大切な人の言葉ってどうも頭に焼き付いてしまうものですよね。それによってどんな貧乏籤を引くことになったとしても。あくまでその態度の是非が「優しさ」という指標で裁かれるわけであります。すごい倫理的な態度なんですけどね。

 

「信じること」の役割は、2番メロでも「願い」を通して登場します。「誰かの願いは他の誰かの願いになって信じることで星空を駆ける」とありますが、願いや祈りは個人的なものではなくて、他の誰かにも同じく伝播する、その媒介として「信じる」という行為を挟むことによって星空を駆ける=より高次元で高尚な願いへと昇華する。Alt.Stratoの文脈でいえば、この寄る辺のない恋情でありますし、それが叶わなくなった今(?)、星々にでもかけなきゃ報われませんから。

 

1番、2番、ラスサビで「言葉」「僕」との関係が浮き彫りになっています。

言葉にすれば消えてしまいそうなくらい 不明瞭な僕の意味を数えて この世界の片隅に重ねた呼吸で 誰のために願おう」(1番サビ)

言葉にすれば消えてしまいそうなくらい 曖昧なこの世界に何を残そう 心に触れた悲しみの糸は切り裂いて 欠けた日々を追いかけた」(2番サビ)

言葉にすれば消えてしまいそうなくらい 不明瞭な僕の意味を数えて 僕は僕のためにここにいるのだと 忘れないように歌い続けよう」(ラスサビ)

自分自身の曖昧さと言葉の重みが反比例した感じになっています。言葉に表せないものは世界から放逐される。言葉に頼っても自分の思いは表現しきれない、言葉の重みによって表現しきれなかった残滓は排斥されて、この世からなかったことになる。「想いは伝えきれない だからこそSingin'」とした「桜色プリズム」も、文脈は多少異なれど、言葉の限界を超える意味で「歌う」という行為に繋げています。「Four leaves」にとっては、自分を自分たらしめる思いを忘却しないための、一種の戒めのような行為として描かれているのかな。

 

その思いというのは願いや夢と重なる部分であり、2番Aメロ「まだ燻る夢のひとつ 鞄に詰め込めるほど軽くはない 押し寄せる時に呑まれて本当の自分さえも見えなくなる」 と表されています。「夢」とは先ほどの願いや1番Bメロの態度と繋がる部分であり、Alt.Stratoという文脈の元では思い人に対する思慕、もう一度君と一緒になりたいという思いなのかな。鞄に詰めきれないほど思いのたけは大きい、時が流れゆく中でもう運ぶことができない。時の移り変わりに翻弄されて本当の自分が見えなくなるというのは、サビ部分の内容を踏まえ、「Four Leaves」のタイトルの意味を繰り返しているのかな。

 

えんどるゲーソン曲は全体的に文脈がないのでわかりにくいですが、えんどるで繰り返されるモチーフから雰囲気だけでもキャッチできるのかな? でもどこか馬鹿正直なほど真っ直ぐな思いというのはひしひしと伝わるところがあって、それはどの曲にも貫かれています。本当に素敵なんですよね...

 

そして私の解釈は先ほど挙げたとまとさんの解釈とはほぼ真逆の線を辿ります。Alt.Stratoの文脈から考えると、次曲との整合性の関係上、まだ思いを振り切れていないととらえるのが合理的かなと思います。一方でそのような世界線を想定しないとする、単なる1曲として考えるならば、Endorfin.のお二人がおっしゃるように「何か始まりを予感させるような」楽曲であり、「君」への思いにケリをつけ新たな門出を迎える、その意味での「始まり」といえるのかもしれません。

 

なお歌詞カードの描かれたイラストはピアノを弾き語る女性。この曲を歌っているのかな

 

 6. Alt. Strato

表題曲:「Alt.Strato」Endorfin.にしては珍しいバラード調の曲。introductionでも使われたイントロのピアノの旋律が、この物語を聴いた後では深く心に染み込みますよね。ストリングスのサウンドもまた切なく響いています。

 

Alt.Stratoの意味を他の方々はどう理解したのかな? 直訳すればAlt: alternative or ドイツ語で「古い」Strato:stratosphere(成層圏)ということになるので、「もう一つの空」「古き時の空」って感じでしょうか。 「移ろう空の色さえ 二度とは出会えない」という部分からしてもそうなんじゃないのかな。

 

この曲のテーマはまさに「追憶」。かつて「君」と過ごした田舎町を訪ねているという感じでしょうか。「Cornus Florida」と同じような時間軸に立っているのかな。「懐かしい風に紛れこんだ あの日の君の影を探して」というアルバムの表題に繋げながら... いるはずもない影を追い求めて。

 

一つ一つの歌詞が本当に心の底から理解出来るですよね。

 

あの日と同じ蝉の声と刺すような青空 深く埋もれた記憶を痛いほど映し出した」は蝉の声と青空という夏を象徴する装置のような役割を果たし、視覚と聴覚を通して「リフレクション」や「泡沫の灯」のあの世界を、救われなかった現実を呼び覚まします。

 

時は流れここはきっとあの頃とは違う場所 移ろう空の色さえ 二度とは出会えない」からは、やはり昨日のことのように覚えているあの場所であっても、長い年月が過ぎたために記憶の場所とは程遠くなってしまったことを指しています。街並みが変わった、再開発でかつての遊び場が消滅した...など物理的な要素もありますが、何か大切な人と過ごした記憶が結びついて認識の中の場所というのは存在しているから、追憶の中でしかその人がいない以上、もうすでに今訪れた町というのは抜け殻のようなものでしかないのです。この曲の情景が、自然のもの(蝉の声、流れてゆく雲)でしか表現されておらず、秘密基地のような特定の人工物や建物については表現されていないのがその証左かと。Horizon Claireの「残光」や「ミントブルーガール」においても「場所・舞台」の存在が強調されていますが、これらにも同じことが言えます。

 

BメロやCメロでこのような記憶は全て捨て切れたと歌っていますが、結局は思い返してしまう。記憶というのはそれだけ厄介なもので、辛いもので、太陽のように輝く過去に今の自分を照らし合わせ、縛めらせてしまう

 

サビは1番と2番比較するとこの物語の主人公の思いの揺れ幅がわかります。これまた経験したことのある人にとっては十分響くものなのでは?

夏の青に包まれて 止めどなく溢れ出す哀 もしあの時間に戻れたなら 今は変わるのかな

夏の青に包まれて 止めどなく溢れ出す哀 もしあの時間に戻れたとしても きっと言えない

「今は変わる?」→「過去に戻っても言えない」という心境の変化が見られますが、ではなぜ過去に戻っても言えないのでしょうか?この理由がきっとAlt.Stratoの世界観の根本にあるテーマではないかと思います。

 

ですがこの理由についてはここでは伏せておきます。「記憶の君にさよなら」がヒントになりうるのかな。

 

そして最後に「君は君の道へ 私は私の道へ きっともう交わらない平行線を歩いてゆくのだろう 」とアルバムのキャッチコピーが表され二度と会えないことが暗示されますが、「そしてまたこの町のどこかで・・・」とどこか再会を願うなどやっぱ諦めていないことが示されています。なんというか、なんというかですね(語彙崩壊)

 

Endorfin.はモチーフの使い方が非常にうまいんですよね。そこからの情景の映し方も。

「夏の青」→「哀(藍)」って流れ、青は藍より出でて藍より青しじゃないけど、綺麗な表現だなって思います。「青(蒼)」という表現は他楽曲にも見られ、「続いてく青に反射して混じり合う」 (「桜色プリズム」)「蒼に溶けていく」(「海月」)、「蒼が割れて 灰に散る」([Kaleidoscope])とあります。溶けたり包まれたり混ざったり割れたり忙しいですね()

 

感情移入がしやすいエモい曲の代表格として、自分自身はこの「Alt.Strato」を位置付けています。

 

そこには憎しみの神はあるが、救いの神はない。なぜなら、地上における失敗は、永遠にとりかえしがつかぬからだ。神は人間の外部的な行為について罰するのみで、その内的動機によって救いとろうとしないのである。

 

福田恒存 『人間・この劇的なるもの』

 

歌詞カードについてと残された部分

歌詞カードに載っているイラストについてまとめると

 

・Cornus Florida: 幼少期の女の子 枝を持つ

・リフレクション: 中学生の女の子 紙ヒコーキ

・泡沫の灯: 高校生の女の子 夜空の下一人佇む

・Four Leaves: 大人の女性 ピアノの弾き語り 

・Alt.Strato: 二輪のひまわり リボンで結ぶ

 

そしてアルバムジャケットの裏は教室の机、歌詞カードの裏にはホームページでは白紙となっていた紙ヒコーキに「ずっと言えなかったけど、僕は君のことが好きです。返事待ってます。君の気持ちが知りたい。」と。非常に憎い仕掛けが施されています。いや、これは泣くでしょ

 

残された問題として、一人称のズレがあります。特に「リフレクション」では「僕」と「私」の両方が用いられ、「Alt.Strato」では「私」が一人称、他の楽曲と紙ヒコーキの手紙の中では「僕」となっています。「僕」というジェンダーを男として、「私」を女として捉えるならば、この物語の主人公とは何者なのでしょうか。本当に一人の主人公の片思いの話なのか、実は男女両方の恋模様が描かれており(楽曲によって視点が違う)、両想いだったけどお互い告げられずに終わってしまった話なのか。

 

きっとその両方で解釈できるのではないかと思います。自分としては青春時代を綴る「リフレクション」「泡沫の灯」で「僕」が使われ、「Alt.Strato」の追憶時では「私」が使われていることから、「どの時代の視点で立っているか」で一人称が変わっていると解し、男→女への片思いだと思っています。まあそうすると歌詞カードのイラストなど整合性が取れない部分も出てくるんですけどね。

 

それと歌詞カードのイラストを見る上で気になった点として、どのイラストにも藍色のリボンが出てきているんですよね。髪につけたりカバンにつけたり、ひまわりを束ねたり... 幼少期から大人になるまで一貫して付けられているのは何か大切な意味でも込められているのかな。大切な人からもらった...とか。二輪のひまわりを束ねたイラストが「Alt.Strato」では描かれていますが、これは2人が結ばれてくれという願掛けでしょうか。そこにこのリボンを使っていることも妙に示唆的ですよね。でも歌詞には一言もリボンの存在は明記されていません。

 

明記されていないといえば、あれだけジャケットに描かれた「ひまわり」🌻も歌詞には出てきていないんですよね。

でもどうしてひまわりを見ると妙なノスタルジアや切なさを想起させられるのでしょうかね。一応花言葉は「憧れ」「あなただけを見つめる」ということですが... 「ひまわり」という1970年のイタリア映画の影響か、「Mother3」第6章 ひまわりの高原の例のシーンか、自分が思いつく限りだと悲哀やら別れやらと繋がっているような気もするけど。何というか、架空の青春なり故郷をでっち上げた挙句、それに対する郷愁を元に現実(現在)の自分を裁くような、中々理不尽でエグい装置ですよね、ひまわりって。

 

解釈の余地は無限にありますが、一つ一つ要素を取り出していくとああこれわかる〜ってところばっかりで、自分も失われた青春を思い出したような気がします。

 

Endorfinのアルバムのイラストについて

 

Alt.Stratoのアルバムジャケットで描かれている女の子は、Horizon Noteで描かれていた子とそっくりですね。

 

いつの間にかなくるさんのイメージになっていました。「自然は芸術を模倣する Life imitates art」とはまさしくこのことで。藍月なくるという存在がこの銀髪の女の子に模倣される、ふーみ先生やその後えんどるのジャケットを手がけたおしお先生*1、アシマ先生でもEndorfin.の中でこれらの諸要素が反復され、a20さんによる本人新規イラストに代表されるように、なくるさん本人を模倣した。過去のなくるさんのアルバム(Nacollection!やアプルフィリアの秘め事など)の七瀬えか先生のイラストでも銀髪のモチーフはすでにあったので、6年以上ですかね。

 

そして何よりこの銀髪モチーフと模倣には数々のファンアートが有機的に結合しています。この営みこそが一番重要なのかなと個人的に思っています。ある種えんどるのアルバムジャケットは不思議な肖像画なのかもしれません。

 

そしてこのモチーフの連続性と模倣との関係においてAlt.Stratoのイラストの意義とは、Horizon Noteから始まり、Horizon Claireで大団円を迎えるEndorfin.の一つの物語のキャラクターイメージを確立(始まりではない)であり、語弊を気にせず言い切れば、「Endorfin.のなくるさんの肖像画であると思います。

 

ここらへんにまでにします。ほよ〜

 

 

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(多分追記します) 

 

 

 

*1:ただしLOST-IDEAにつき、具体的なストーリーの登場人物であるためこの議論の対象からは外れる、なお当該アルバム発売当時、シロの方をなくるさんはアイコン画像に使用していました。それを考えると基本的に踏襲されている?