音楽とかなんとか 雑記帳

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ItknkR(棗いつき+藍月なくる) Collaboration Album『Eufolie』(IKNR-01)の感想

ItknkR(いつき+月なくる) Collaboration Album『Eufolie』(IKNR-01)の感想です。

 

新曲は「パライソ・パライソ」「Eufolie」「愛に飢えたケダモノ」の3曲、そして「アプルフィリアの秘め事」と「As you wish, My lady」のいつきんくるカバー2曲。計5曲で構成されています。作詞作曲陣が「あ、◯◯で見たことある!」ってくらい本当に豪華で最高。

 

新曲群(3曲)は、今までいつきさんやなくるさんの出した歴代のアルバムとは構成が多少違っています。互いに騙し騙されほよりほよられながら堕ちてゆく「ドロッドロ共依存百合」というストーリーテーマを、いくつかのワードを共有しながら、それぞれの作詞作曲者が描く、そういった多面的な造りになっています。特に「虚飾」「」「」やそれらに準ずるワードは3曲すべてに表されています。ねじ式さん、いつきさん、かぼちゃさん、歌詞は基本的に同じ情景や世界観を指していても、ニュアンスというか、モチーフの使い方が異なっていて作詞作曲者特有のセンスが光るのもいい。全体的に主観的な要素を大きく孕むのもこのアルバムの特徴の一つ。今までのアルバム収録曲って、Nacollectionように1曲1曲違うテーマが与えられているか、もしくはJelLaboratoryやElis' dogmaのストーリー仕立てになっているか、この2択だったので、このような構成は何気に初なのでは?と。勿論ItknkR(いつきんくる)としてアルバム出すのは初なんですけれどもね。

 

アルバムジャケットについて、いつきさんとなくるさんの立ち絵のデザインがそのまま使われていて一目でご本人たちとわかります。眼福...!。M3開催日がいいね欄になってたりとちょっと凝ったところがあって素敵ですね。「M3で出すんだ」って気概が見て取れます。

今回もすごい盛況で、1時間くらい外まで列が伸びてて凄かったです。お二人と交流もできて、いや本当にいいイベントですね。

そんな前提はさて置きここから本題へ。

 

 

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1 パライソ・パライソ

 作詞作曲ねじ式さん。そういえばいつきんくるで「ピニャコラーダ」のカバーありましたね。あの時よりも表現できる音域の幅は広がっているな...と。

 

ミドルテンポで3分半、表題曲というわけでもなく、本アルバムの中で一番短い曲です。表題曲を最初に持ってくるのがデフォルトだと思いますが(もしくは最後に)、そうではなく表題曲を2番目に、このパライソ・パライソを1番目に持ってきていて、アルバムとしてはかなり珍しい構成となっています。

 

一方で曲調は至って単純で、A→サビ→A→サビ→B→サビ。Aメロが反復され強調される。他の新曲と比べツインボーカルの掛け合いがなく、かなり平坦に聞こえる。変化・展開に乏しいけれどラスサビ前のメロディーは好き。半音ずつが下っていく感じがよき。他2曲がかなり癖の強い曲だから、最初にこのような纏まってて落ち着いた曲が選ばれたのかもしれない。

 

偽造した愛の言葉」「虚像を積み上げて飾ったつもりが」「厭と言えない檻の中」「火傷なら勲章と呼べるほどに」など「虚飾」「」「」といったキーワードを散りばめることで、アルバムの世界観の呈示を果たしています。趣としてはピニャコラーダに似ている。さらに他2曲と比べても特にこの曲は、感情の機微を最小限のワードで描いています。一方ワードそれ自体は主観的要素を孕み(例えばサビの歌詞、「嗜虐心」とそれに連なる「卑劣」や「破廉恥」もか)、かつ状況を断片的に捉えて描いているため、ストーリーはわかるようでわからないような構成になっています。とはいえ前述のように、互いに堕ちてゆく「ドロッドロ共依存百合」という本筋は見て取れ、攻めと受けでそれぞれのパートを分けていて、割とリアリティのある情景に落とし込めているのかな...と感じます。言葉少なめな分、アニメーションで世界観を補強している部分はあります。

 

特に「火傷なら勲章と呼べるほどに」ってとこや「薔薇(バラ)撒く棘は蜜の味」がいい味出していますね。彼岸花バラのモチーフはこの曲の本アルバムにおける特殊性を表していています(次の2曲も同じストーリーを共有しつつも、それぞれ別のモチーフを加えています)

 

いざこう聴いてみるといつきさんとなくるさんで全然歌い方が違うのでその対比が非常に面白いです。いつきさんは結構抑揚はっきりとした表現に、なくるさんはどちらかといえば繊細にフラットな感じで、多分曲調的にしっとり目に歌い上げるのがいいと思うけど、それだけじゃ味気ないので互いに違う表現で歌い上げるのが最適解かな

 

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過去の歌ってみた動画(ピニャコラーダ)

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2 Eufolie

euphorie(多幸感)+folie(狂気) 仏語(ないし英語)の造語(なおfolieの発音記号はfɔ.liなのでeの発音は本来ない) こんなドロドロとした百合物語には相応しいですね。

 

作曲はかそかそさん、作詞はいつきさん、これまたミドルテンポな曲かなと思いきや、jazzyでかなりハイテンポノンストップで駆け上がるような複雑な曲。特にサビが最高に恍惚感があっていいですね。「二人甘く香るEufolie」までのメロディーの畳み掛けは盛り上がります。Aメロの「HEAVEN or HELL」「RAISE or CALL」といったコーラスの使い方がいいですね。

一方パートメロディも工夫が凝らされていて、特に1番Bメロのなくるさんパートは変化に富んでて好きです。「約束された結末に」で音程が跳ね上がるのがいい。

A→B→サビ→A’→B’→サビ→C→落ちサビ(半音下げ?)→サビ、特にB’は完全にBとは別物で、これ歌うの大変だったろうな...と感じます。テクニックとリズム感を相当要求しますよね。でもliveで歌うと物凄く楽しそうだし決まりそう。

 

先述のテーマ性を踏襲しながら、ギャンブル的要素を入れ込んでいます。スート、Bet、raise or call、オールインといった駆け引きの象徴たるポーカーを素材としながら、そこにブラフ・ポーカーフェイスという「虚飾」を結び付けています。このテンポ感、目眩く展開するゲームに相性バッチリやなと感じます。駆け引きは全曲「パライソ・パライソ」にもその要素を響かせますが、Eufolieはそれをゲームと明示しており、よりはっきりしているのがええなあと。

 

最大の聴きどころは畳み掛けるようなCメロですかね。ゲームから引き摺り下ろされて剥き出しの欲望が両パート相まって、ドロッドロ共依存って感じが伝わります。なお3曲目はこれをさらに過激にさせているので...

落ちサビ→ラスサビにかけて、「二人檻の中 ああ 鍵を失くしていたの」はキーが下がっている分もの哀しさを感じます。そしてお互いこのゲームの勝敗すら「狡猾に飾られたフェイク」であることに気づく、この堕ちていく感じ、いいですね。

 

言葉遊びを所々使用した曲でもある(特にサビ)ので是非歌詞カードを確認してもろて。ギミックが盛り沢山で、ツインボーカルでしか表せないと思います。

今回のアルバムの中で一番衝撃を受けた曲です。作詞してたらいつの間にか表題曲になってたのもわかる

 

3 愛に飢えたケダモノ

作詞作曲かぼちゃさんの楽曲。絶対何かあると感じさせるラインナップ。なこれ2の「ジョカパレ」やなこれ3の「Lilith」に引き続きって感じです。大概えっちな曲になる。

A→B→サビ→A→B→サビ→C→ラスサビと前曲の「Eufolie」と比べ展開は複雑でない。けれども、全体的に艶っぽい印象を感じさせます。サビ自体はjazzyで落ち着いたテイストだけど、歌詞が異様にエグくて浮揚感のような、不思議な心地がします。

 

まあ歌詞がぶっ飛んでて、とりあえずかぼちゃさんだからそうか...というのが歌詞カード見た時の感想。1番2番Aメロは明らかな背景描写、そこから二人の身体へと焦点を合わせていく。1番Bメロは「嫉妬深いのも 知られるのも 屈辱で」と「パライソ・パライソ」「Eufolie」のストーリーを踏襲しながら進んでいき、そしてサビで「愛に飢えたケダモノ 首輪に鍵をかけ 共食いで餌付けして 飼い馴らせば」とかなり過激な方向に進めています。これサビで持ってくるか、という。ただこれ以上にアカン歌詞が散見されるの、本当にコンプラ的に大丈夫だったんですかね...。共食いって表現いいですよね。性欲の昂り→ケダモノって繋がりなんですかね。それに首輪調教。サドっぽい世界だ(適当)。

 

2番の方が直截的に二人へと迫っています。1番よりも2番の方が個人的には好き。「栞挿したままの小説」を引き合いに出して「二人だけ世界」を導き出すのは、残酷な独占欲が醸し出されていていいですね。そりゃ小説が読み終わらなければ、その世界は永遠に続くわけですから。

続けて2番Bメロの「気付けばあんなにいた友人からも孤立して 独占欲が牙を剥いて」は共感しかない。今までの2曲ではあまり意識されなかった内縁/外縁がここで表現されています。外部の人間関係を徹底的に捨象することによって現れる、剥き出しの独占欲、「檻」というモチーフが先鋭的に形作られ生々しさを感じます。ドロッドロ共依存の幕開けです。

 

Cメロはまさしく「共依存の檻」の中で互いに「躾けしあう」というこの世の終わりみたいな状況へと繋がっていきます。それ以上は確実にコンプラに引っかかりそうな歌詞でほよ(割愛)

ここの6連符もジャズらしくていいですね。もっと積極的に3連符や6.7連符を使ってもろて()

 

そしてラスサビは1番に比べ「愛に飢えたケダモノ 首輪に鍵失くし 共食いで餌付けして 飼い殺した」とああもう戻れないんだなぁ...と。互いに性欲を貪り尽くせるまで貪り尽くす、欲求の彼方へ無限に突っ込んでいく感じがEufolieとは比べものにならないくらい高揚感、恍惚感を与えてくれます。

ただし過激であれクドくない表現に落とし込んでいるのはバランス取れてていいですね。abyss(某陵辱ゲーの曲)に似た歌詞やなあと思いました。(こちらも色々アウトな隠語が散見されていいですよ)

またツインボーカル曲ってことで、「天国で泣いた/監獄で泣いた」(1番サビ)、「囚人にされてた/主人にされてた」(2番サビ)「救われ/巣食われ」(同)「一人で泣いた/二人で泣いた」(ラスサビ)と歌詞を互いに変えていて奥行き・立体感ができています。特に最後、一人なのか二人なのか、孤独なのか依存なのか、含みをもたせた幕引きをしているのはいい。

 

歌に関して、なくるさんは高い声はもとより、低い声も綺麗に安定して音出せるようになったなあ...とAメロ聴いてて思います。いつきさんもベースがしっかりしているので、ハモらせた時の安定感と存在感が丁度いい。ただエグい世界観ながら、楽曲自体は、気品がありかつ繊細なメロディーという構成になっているので、歌声での表情の付け方で聴こえ方は随分変わると思います。そういった耽美な部分を如何に演出するかは重要かと。

 

ただ暴力の実現だけが人間の至高のイメージを満たすものなのである... となれば唯一獰猛な犬の貪欲さだけが、何にも制約されない人間の激情を完全に実現することなのかもしれない。

 

Georges Bataille 『サドの至高者』

 

4 アプルフィリアの秘め事 cover

5年前でしたっけ... 元々はなくるさんの曲ですがいつきさんのカバー版です。自分自身非常に好きな曲でしたのでこれには大喜びでした。一方元から「完成された」曲ではあるので中々どう歌うか難しいだろうな...と感じます。

 

といいつつもいつきさん色は全面に出ていて(ちょいロリっぽい?)、伸びやかでパワフルで普通にアリですね。サビの最後あたりとか明瞭に言葉が聞き取れるのは原曲にはないポイントかと。原曲と甲乙付け難いほど非常に素敵に仕上がってます。「跪きなさい」のいつきさんverが聴けるのは本当にご褒美。後言うとしたら微妙なニュアンスというか、表現の解釈をもっと推し進めればより独自性は増すのかな。

 

5 As you my wish, My lady  cover

こちらは元々いつきさんの楽曲。作曲lilyさんなのでなくるさんにはぴったりのカバーだったのかも。ただ本当に難しい(後述)

歌声のトーンはなくるさんにしては低め(基本今回のアルバムの曲では低いですが)。何かのサイトに男の子のボイスあげていたと思うんですが、それを思い出しました。実際この曲の主人公は男の子ですし雰囲気めっちゃ合ってると思います。普通に格好いい。原曲とは違い、最後のサビで音程あげてるのはいいですね。自分はカバーverのアレンジの方が好きです。

 

そのまま歌うと単調めになってしまいがちですので、1番と2番とで表現を変えたり、ドラマ性を意識させたい。Bメロとか結構早口だしメロディを潰してはいけないので滑舌はよくしていかなければならない、そもそも全体的に休憩がないので歌い切るのが大変、この2点を踏まえた上でドラマ性を考えていかなければならないので、本当に難しい曲です。なくちゃにとっては苦手な感じの曲だろうなあと。

 

でも非常にトリッキーながら歌詞が非常にいいので、いつきさん以外にも歌って欲しかった曲でしたので個人的にこのカバーはおいしいです。

 

カバーされた2曲とも作詞ゆーりさんなんですね。このくらいの過激さが自分は一番しっくりしますね。しみみ集合って感じで感慨深い(謎)です。

 

2曲の歌詞については以下参照。

pon-hide0228.hatenablog.com

 

 

最後に

万人受けが「パライソ・パライソ」、アルバムのキラーチューンであり最もダイナミックなのが表題曲「Eufolie」、これからも怪しい輝きを放ち続けるだろうダークホース的な曲が「愛に飢えたケダモノ」、そして往年のいつきんくるファンにブッ刺さるカバー2曲と、バリエーションに富んでて(世界観が色々終わっていること以外は)バランスの取れたアルバムだったんじゃないかと思います。世界観が尖っていて人を選びそうだけど、それぞれのアーティスト(作詞・作曲者)のテーマに対する「切り取り方」が垣間見えるのがいい。

それとM3直前放送無茶苦茶面白いのでみんな見てもろて。

 

 

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