音楽とかなんとか 雑記帳

主に感想とメモです。

双子座神話から見る『Gemini Syndrome』(歌: La Prière)の構成と各楽曲の感想

双子座神話をモチーフとしたCDアルバム『Gemini Syndrome』(歌: La Prière)について、楽曲の歌詞と双子座神話との関連性や相違点を考えつつ各楽曲の感想をつらつらと書いていこうかなと思います。

 

 

 

‘πάτερ Κρονίων, τίς δὴ λύσις 

ἔσσεται πενθέων; καὶ ἐμοὶ θάνατον σὺν τῷδ᾽ ἐπίτειλον, ἄναξ.
οἴχεται τιμὰ φίλων τατωμένῳ φωτί: παῦροι δ᾽ ἐν πόνῳ πιστοὶ βροτῶν
καμάτου μεταλαμβάνειν.’

「父クロニオンよ、わたしの悲しみはどうしたら解かれるのでしょう?わたしにも、彼とともに、死を命じて下さい、主よ。

友を奪われた者にはもう譽れも何もありはしない。艱難の中で、苦労を共にしてくれる信頼できる人間はわずかしかいないのです。」

 

ピンダロス (内田次信 訳)『ピンダロス/祝勝歌集・断片集』(西洋古典叢書) より「ネメア第10祝勝歌」 p304~05

 

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1.  双子座神話について

 

双子座神話は兄であるカストルの死と不死である弟のポルックスの昇天を題材としています。ただし、カストルポルックスの出自、カストルの死の原因やその後の双子の帰結については多少の相違があります。

 

ヒュギヌスの『ギリシャ神話集』では、双子の出自について、カストルはレーダーとテュンダレオスとの間に、ポルックスヘレネーと同じくゼウスの子とし、ポルックス自身はゼウスから星を受け取ったが、カストルには与えられなかったとしています。カストルの死の原因はポイベーとヒーラエイラをめぐるイーダース・リュンケウス兄弟との争いだとして、カストルがリュンケウスを殺し、イーダースが剣でカストルを殺し、そしてポルックスがイーダースを殺す。その後「ポリュデウケースは、自分の贈り物を兄弟と分かち合うことを許していただきたい」とゼウスに要求し、その結果、ウェルギリウスのアエネイスを引用し「自分が代わりに死ぬことにより、相手がよみがえる」こととなった、と書いています*1。ヒュギヌスの『天文詩』では、双子の友情の報いとしてユピテル(ゼウス)により星座とされた、としています*2

 

アポロドーロスの『ギリシャ神話』では、双子の出自についてはヒュギヌスと同じですが、カストルの死の原因について略奪した牛の分配を巡るイーダース・リュンケウス兄弟との争いとし、イーダースがカストルを殺し、ポルックスがリュンケウスを殺すものの、イーダースにより石を投げつけられポルックスは気絶、その後ゼウスの雷霆によってイーダースが殺され、そしてゼウスがポルックスを天上に連れ登った。だが、ポルックスは「カストールが死骸となっている間は不死を得ることを肯じなかったので、ゼウスは両人に一日おきに神々と人間の間にいることを許した」としています。*3

 

また、上記のローマ人作家以前にも、ホメロスの『オデュッセイア』では、双子はレーダーとテュンダレオスとの間に生まれたとされ、「ものみなに命を授ける大地が、生きながら二人を蔽っている。二人は地下にありながら、ゼウスから特権を与えられ、一日ごとに交る替る生きては死ぬことを繰り返す。二人は神々と同じ特権に与っているのだ」と伝えています。*4 最初に引用したピンダロスも「ネメア祝勝歌 10」にて、この双子神話に言及しています。

 

いずれにせよ双子の中カストルが死ぬこと、ポルックスがゼウスに嘆願することはどの神話においても変わらないですね。ポルックスはその不死を分かつことになりますが、その結果として天界と地上を交互に行き来するか、天界の星となるかという差異はあるものの、神たるゼウスにより報われている点では、どの神話でも軌を一にしているといえます。*5

 

2. Gemini Syndromeにおける神話の再解釈と構造

 

1.で確認したような神話の共通項-カストルの死、ポルックスの神への嘆願、そして救済-はGemini Syndromeでも変わらないです。

 

しかし、神話で示すようなイーダース・リュンケウス兄弟との争いは語られず、イーダース殺害といった復讐の要素も削ぎ落とされています。カストルの死から物語が始まるのです。

また、重要な転換として、カストルポルックスギリシャ神話には全く由来しない悪魔(カストル)と天使(ポルックス)に置き換え、善悪という人間内部にある倫理的判断を組み込むといった点があります。ただし、単純な正義と悪といった勧善懲悪の構図にもなっていません。

加えて、カストルと神の心情がポルックスのそれと同じように描かれている点も元の神話にはない要素です。双子の人間的要素、作品のキーワードである「祈り」が強調され、兄弟愛(姉妹愛?) の勝利という近代的価値観が押し出された形となっています。ストーリー上は双子座神話をなぞりつつも、キャラクター性や神話劇を構成する要素についてはギリシャ神話の世界観からは隔絶していますね。

 

・triune Castor

 

アルバムのプレリュード。意味としては三位一体のカストル? 今作の3人のことかな。

時計台の針が動くような音、そして物悲しげなハープの旋律と、次の曲のフレーズを歌うストリングスが星座の世界の神秘性を形成して優美な曲になってます。

 

 

・永訣のGemini

 

「誰にも語られぬ神話 破滅を歌えば 否めよ 永訣の宿命」

 

この衝撃的な歌詞で物語が始まり、双子、神の3つにパートに分かれそれぞれの心情、独白、世界観の呈示がなされています。

 

「天の采配」「罪」「罰」といったワードが神パートに見られますが、これこそギリシャ神話にも全く触れられていない部分です。ただ、何に対する「罪」であるかは明らかにされていないです。また、表象においては天使と悪魔であるものの、その性質は明らかになっていません。あくまで星座神話という一つの救済の物語が筋であるため、悪といったこれと矛盾する要素は排斥されたのかなと思います。そっちの方が感情移入しやすいですしね。

 

天使と悪魔のパートは、特にBメロにおける歌詞がそれぞれ対になっているところがあります。(例えば「たとえこの身が朽ち果てようと」(悪魔パート)「たとえ奈落に堕ち果てようと」(天使パート)) 対句を挟むことで、サビをより一段と盛り上げる効果を演出しているの、こういうトリプルボーカルの曲だからこそできる技ですよね。

 

なお天使パート自体も「純黒の翼 あなたにはそぐわない」「純白の翼 私にはそぐわない」と対となる表現があり、天使と悪魔の本作のキャラクター性が窺えます。この「科せられた約定」と双子を引き裂いた運命に対する悲哀と、堕ちた悪魔に対する救済を願う、そういった天使の姿が描かれています。ギリシャ神話では死んだカストルは何も語りませんが、この作品では死者でありつつもパートが割かれ、その苦しみが語られるなど、ストーリー上、双子間の関係は同列であることが強調されてますね。

 

アルバム全体を貫くテーマを呈示するもう一つのポイントとして、神と双子との関係性があります。双子が「祈りの歌」、「愛の旋律」を響かせることで神の慈悲を求める、そのような意味では神への嘆願と救済が描かれていますが、一方で不条理な現実と「天の采配」による裁きへの命を賭けた抵抗という神に対する叛逆も描かれています。

 

この点は「罪に罰を 救いの手を 相反する真実」という歌詞にも表現される通り、祈られる対象と裁きを与える主体を同一視することによる相反した神のイメージ、それに対する双子の心情の矛盾が表出されています。この矛盾の帰結は「自分が代わりに死ぬことにより、相手がよみがえる」、すなわち天使の不死性が消滅する(星となる)ことであり、二人とも生き返るという筋書きではないです。歌を紡ぐこと、祈ること、それ自体は近代的ですけど、その対価、「命灯」を差し出すことは生贄を媒介とし生命の復活を願う古代的儀式要素をかすかに醸し出しています。

 

曲の構成や進行は何年か前のelements gardenを想起させるようでめちゃくちゃエモいです。かそかそさん、ジャズ系の曲のイメージが強かったので、結構衝撃を受けました。AメロBメロサビ全てドラマチックに進行してこの1曲だけでもお腹いっぱいになってしまうほど、動機付けとしてはこれ以上ないくらい劇的で格好いいです。

 

何よりもいつきさんの作詞がすごい素敵で心を揺り動かされました。厨二病感満載ながらも分かたれた天使と悪魔の悲哀、恋慕を1番と2番で対句的に打ち出し、強力なワードと的確なパート分けで紡ぎ出していて、綺麗だなあって思います。難産だった理由もわかります。何より2番の歌詞が本当に心揺さぶられますよね。 

 

先だった悪魔を切なく、耽美に表現するnayutaさん、先立たれた天使の悲哀と恋慕に燃える魂をパワフルに表現するなくるさん、そしてキリッとした、ハイトーンボイスでこの曲の世界観全てを貫くロリ神様いつきさん、三者三様個性的でエモーショナルで素晴らしかったです。表現力に圧倒されてこの時点で泣いてました。

 

・君よ

 

天使ソロ、正直一番楽しみにしていた曲です! 作曲がRewriteなどで担当されてた塚越さんと聞いてめちゃくちゃ喜びました。ゴシック系の曲って、絶対なくるさんと相性ええやん、って勝手にいつかコラボないかなぁと期待してたら現実になりました。ありがとうございます。

 

電子音を混ぜたオペラ調の曲って感じです。この曲だけ、一人称我や古風な言い切りを用い、ギリシャ神話の武人的イメージが維持されているのかな。戦争を背景として失った「君」への哀悼を謳いあげます。

 

Aメロの1番と2番では「君」への語りかけで始まります。「運命に抗いし者よ」として「永訣のGemini」から引き継がれた宿命への対抗が繰り返されます。そして、彼らの世界とは「月さえも解らぬ」「数多 現し世の闇」であり、清く輝く「君」と明確な対比関係になっています。そして凄惨たる現実こそが彼らの克己心の源であるのかな?

 

Bメロの1番と2番

・「我はいざ行かん 両の手には 大地を焼く業火も この身焦がせはしない」(1番)

・「何故生まれた 無に帰すまで 燃やし尽くせ 今は 神の御許を目指せ」(2番)

から、己を焼き焦がすことのできない、戦火などの外部からの火、そして双子の奪還に燃える己の内部からの火(克己心)が対比されています。

 

そしてサビ1番、2番では「君」と「神」に対して呼びかけます。

・「あゝ、君よ 星となりて 愚かしさを憂うのだろう 尚も戦は続いてゆく」

・「あゝ、神よ 今一度の、今一度の慈悲をどうか 差し出そう 我がすべてを 望郷の彼方に 微笑むαγαπημένοι」*6

 

この曲全体を貫くのは「君」に対する追慕であり、「我」の独白です。穢れた世界に染まらず気高きままに、白きままに、無垢なる儘であってほしいという、悲哀に満ちた願いです。

 

そして感動をさらに深めるのが、なくるさんの清澄な歌声です。特に「君よ 君よ 君よ」のリフレインや2番の「我は今も未だ ここにいる」の突然のファルセットがドキってきます。ビブラートの使い方が上手くなったなあ、表現力が上がったなあと感じます。楽曲の魅力をさらに奥の深いところまで引き出されているので、そのパワーに圧倒されます。

 

荘厳なコーラス含めて格調高く、メッセージ性の高い曲です。fullを聞いて一番好きな曲です。

 

・鏡像のカノン

 

endorfin.の作曲のsky_deltaさんとnayutaさんの楽曲。雰囲気的にはえんどるの海月やコトノハに似てるかな?星屑のように美しい歌詞を一つ一つの意味内容を正確に、丁寧に、歌い紡ぐnayutaさん、本当に感動しました、、目の前に有り有りと星巡りの情景が浮かび上がります

 

切ないバラード系で自分が大好きなピアノ中心、2番のサビから入るギターサウンドが素敵、そして畳み掛けるように転調、えんどるらしさ全開って感じです。コーラスもしっかりと引き立てています。

 

「君よ」と同じく「君」に対する、つまり悪魔の天使に対する思慕を謳い上げています。タイトルの鏡像は双子を表しますが、同時に鏡で分かたれている以上触れることのできない存在であることの暗示であり、また、カノンは同じ旋律を異なる時点から開始する曲形式であり、同じことを思っているはずだがどこかずれてしまっている、そのような双子の心情を指しているのでしょうか。歌詞にある「光失くした影」は影、つまり悪魔を主体とし光(天使)を失った哀しみを示しています。光と影というモチーフは次曲「Atonement Twins」でも繰り返されます。

 

また、

・「宿命に この身差し出そう いつの日か 君に逢えるなら」(サビ部分)

から、宿命(采配 裁き)に対する悪魔の態度が見られ、

・「揺るぎない この想いでさえ いつの日か 塵に還るなら 此処に在ることの意味は何?」(2番サビ)

は上述の「君よ」の2番Bメロの歌詞との関連性をほのめかしています。

 

・Atonement Twins

  

神によるソロパートです。「贖いの双子」というわけで各所に原罪や罰といった内容や、逆に救済が編み込まれています。Feryquitousさんらしい複雑でポストモダンで、でも無機質な激情を孕んだ曲ですね。

 

かなり歌詞が複雑ですので誰視点かで考えます。すると、曲全体でその視点が揺らいでいることがわかります。「有限 欲するならば 与えよう」は、上記のギリシャ神話に共通するポルックスの不死を分かつという要素を踏まえた歌詞ですが、これは双子の願いに対する神の返答であり、神視点と解せられます。一方で「如何にして 私達の選択は 間違いじゃない筈だ」の私達は天使と悪魔であり、彼らの視点で語られてます。

さらに、この曲の中で繰り返される歌詞として「引き剥がされた双対は 光と陰 永久と分かつ どうか 一矢省みぬ罰で 水底の君を救い給へ」とありますが、救い給へという記述からこれも双子視点であると思われます。

 

また、「罰」で「救う」という矛盾した要素は前述の「永訣のGemini」を踏襲しています。全体として判然としない曲であるが、少なくとも神の視点を要素に入れていることから、「祈り」という儀式秘儀的なものを意識したものではないでしょうか。双子の慟哭たる「君よ」と「鏡像のカノン、双子の天界での再会を描く「それは世界を越えて」の空隙を埋める役割を果たしているのかな。

 

セリフ部分含め緊張感が冴え渡り、神の貫禄たっぷりないつきさんの歌いっぷりは、今までに無かったので新鮮でした。そういえば「永訣のGemini」も「それは世界を越えて」も神(=いつきさん)パートから始まるんですよね。夜空を劈くようないつきさんの声が、またこの物語の壮大な風景を想起させます。可愛い曲も格好いい曲(As you wish, My ladyのようなのも含め)も増えるといいなぁ

 

・それは世界を越えて

 

「永訣のGemini」と同じくトリプルボーカルであり、双子の祈りや願いが叶えられ、天界に輝く星々となる-双子座神話のクライマックスを飾る曲です。アルバム内のどの曲よりも歌詞が劇の台詞のようになっていて、独白ではなく双子・神との掛け合いを中心とした構成となっています。その関係性上、歌詞の引用を多くします。(便宜上神パートについてはイタリック)

 

楽曲の構成については、

・1番(AメロBメロサビ):主に悪魔と神 →以下(ⅰ)

・2番(AメロB’メロサビ):天使と神との掛け合い→以下(ⅱ)

・Cメロ、サビ、転調サビ:3者の掛け合い→以下(ⅲ)

・コーダ:全員による合唱→以下(ⅳ)と表記

 となっております。

 

まず(ⅰ)では悪魔(カストル)と神とのやりとりが描かれます。

 

Aメロでは、

「私の祈り もしそれが叶うのなら この声どうかあなたに届けばいいと思う」(悪魔パート)

限りなく心優しき悪魔の声」(神パート)

として、やはり「悪魔」とは単なるキャラ上の問題であることを示唆します。また、同じような構文が(ⅱ)でも表されます。

 

そしてサビでは、

「それが世界を越えて貴女に届くものと__ 」(悪魔パート)

それが只の空想だとして」(神パート)

「 _でも祈るなら! そう何も出来ないこんな私だけれど」(悪魔パート)

と折重なり、言葉でもなく、「祈り」こそが貴女に思いを伝える唯一の方法だとしています。それに反応するように

「あなたの祈りは届いているの」(天使パート)で1番は終わります。

 

一方、天使と神との掛け合いを描く(ⅱ)では(ⅰ)を踏襲しつつ、

声だけでは何も変えられない」(神パート)

とし、それに対して、

「声だけでなくもう一度貴女に逢いたい」(天使パート)

とその姿を要求します。それに対する神の返答

命堕とした悪魔に 如何にして逢えるものか__?」(神パート)に対し、

「この身の命が枷ならばそれさえも投げ捨ててもいい」(天使パート)

と答えます。

ここで双子座神話の核心たる「自分が代わりに死ぬことにより、相手がよみがえる」というモチーフが表出します。不死の肉体を棄てる覚悟が心に響きます。そしてサビ部分は1番と完全に対になっています。

 

祈る死者と願う生者、この用語の差異はわからないものの、(生者の方が多少俗っぽい感じはしますが。)対比構造がしっかりとしているので、頭にすっと話が入りやすいですね。

 

(ⅲ)ではこの天使の態度につき、

心優しき堕した悪魔に 全てを擲つ不死のものなど」(神パート)

とし、ここで天使(ポルックス)の不死性が神話から引用されています。対して、

 

「だからこそ希うのです! 希うのです!!」

 

との双子の力強い返答。この楽曲の盛り上がるポイントの一つです。

非科学的な「祈り」が前景化した例といえば、「Mother 2」が当たります。人間が極限状態に追い込まれた時、最後に残された倫理的態度こそが「祈り」なのでしょう。

 

これにより遂に

ならば今 その祈りを その願いを 聞き届けよう それが世界を越えて響かせるものならば」(神パート)

とする条件の提示を踏まえつつ双子の返答

「私たちの願い(祈り)はけして 終わらない」

そして、

__そうだ けして離れぬように 共に居るがいい」(神パート)

「いつまでも手を取り合って」(合唱)    

祈り(願い)が届き叶うこととなります。

「それが世界を越えて響く」の「それ」とは願い(祈り)を指しますが、具体的に響くという述語を入れていることから、「願い(祈り)を歌う」という要素が組み込まれていると思われます。まさにオルフェーオ等のオペラであるような、恋人に対する愛を歌うことで冥界の番人を説得するというプロットと類似した近代劇の定番がここで表出されます。「歌」の力は万能なんですね。

 

願い叶ってから、新たな要素が提示され、

「そう全ての祈りはけして無駄にならない」(悪魔パート) 

「それを聞くものが居る限りには__!」(合唱)

とし、「聞く他者」の存在を強調します。これは歌詞の文脈上双子の片割れを指すと解せますが、例えば神といった双子の外縁にいる存在(=我々星を眺める人間)も含まれるとの解釈も可能です。

 

最後の(ⅳ)では、3人全員による合唱であり、ナレーターのような視点に切り替わっています。「祈り願う 数多のおもい全て 聞き届ける 双子の星となって」からは、(ⅲ)の最後の「それを聞くもの」と繋がり、祈り願う主体たる双子から、それを聞く客体たる双子への転換が想起されます。*7

 

トリプルボーカル曲で歌詞も構成もしっかりとしていて物語の帰結、神に祈り願い、隣の星として天に昇るまでがミュージカルのように展開していて、5分半以上、壮大な曲です。 特に(ⅲ)のラスサビの転調、(ⅳ)のコーダが本当にクライマックスって感じで盛り上がります。まるで一つの神話が目の前で繰り広げられているように。

 

・Quand on prie la bonne étoile

 

この神話劇の最後を飾る曲。意味は「輝く星に願いをかければ」。豊かなピアノとストリングスの旋律で星巡りを表現しています。そして途中から「それは世界を越えて」のラストの旋律をストリングスが奏でながら一気に加速し、大団円へ。このアルバムが自分にとって初RD-Soundsさんでしたが、本当にはまりました。

 

最後に

 

コミケ始発で行けばよかった、、、(限定セット買えなかった勢) 自分は祈りの深さが足りなかったということで、、

歌詞カードも物凄くデザインが凝っていて見てて飽きないのも素敵ですよね。星座とか好きなので一瞬で心を持ってかれました💫 歌詞パートも色で分けられていて聞き取りやすい。

 

特にこの12月は双子座流星群で盛り上がったこともあり、結構タイムリーなアルバムなのかなって思います。1曲1曲の完成度がめっちゃ高いのでおすすめです。

 

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(歌ってる方々 虚無芸人 天然サイコパス 社畜ってマジ?)

*1:ヒュギヌス (松田治 青山照男 訳)『ギリシャ神話集』(講談社学術文庫) p.125~127 なお『アエネイス』引用部分は6巻 121行目

*2:ふたご座 http://www.kotenmon.com/hyginus/twin.htm

*3:アポロドーロス (高津春繁 訳)『ギリシャ神話』(岩波文庫) p.152 p.154~155 

*4:ホメロス (松平千秋 訳)『オデュッセイア <上>』(岩波文庫) 11歌 p. 291

*5:また参考としてTheoi Project DIOSKOUROI https://www.theoi.com/Ouranios/Dioskouroi.html

*6:αγαπημένοιだと主格男性複数系であり、単数系のαγαπημένοςの方がふさわしい。メロディーをはっきりさせるため敢えて母音で終わる複数系を選択したか。なお、agaméniと発音しているとしか聞き取れず、これに値するギリシャ語は不明。

*7:なお歌詞カードには記載されていないが、仏語詩が語られている。Tu t’entends toute (la) prièreだと思われる。